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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)42号 決定

抗告人 鈴木貞吉

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、本件抗告の趣旨と原因は、別紙(抗告人作成の「審判書に対する即時抗告状」の一部分の写)のとおりである。

二、そこでこれを順次検討する。

1、抗告人主張の①点につき

仮戸籍写、戸籍記載事項申告書写、改製原戸籍謄本、戸籍謄本及び家庭裁判所調査官阿野博夫が墨田区役所戸籍係長上野一郎の陳述要旨を録取した調査報告書によると、墨田区役所は昭和二〇年三月一〇日戦災で焼け戸籍原本も全て焼失してしまい、昭和二〇年七月一六日鈴木武吉より戸籍事項申告書の提出があり、これに基づき仮戸籍が作成されたこと、しかし東京法務局保存の戸籍副本と矛盾する記載があり、記載を訂正したりして改製原戸籍ができ、これには、抗告人の身分事項欄に「昭和一五年一〇月五日母イエと共に入籍」「父鈴木武吉認知届出昭和一五年一〇月五日受附」と記載されており、この記載は、昭和三〇年三月三一日に墨田区長の作成した戸籍抄本にもあったこと、(従って抗告人が昭和二八年頃大学受験のために取り寄せた戸籍謄本にも記載されていたであろうことが推認できる)、ところが、その後昭和三二年法務省令二七条により昭和三八年一〇月三一日編製された現在の戸籍には、右身分事項の記載がないこと、しかし、これは戸籍法施行規則三九条及び昭和三二年八月一日付民事甲第一三五八号戸籍改製事務処理要領によって、戸籍身分事項の移記事項は施行規則三九条の重要な身分事項に係ることだけとなり、抗告人の主張する前記入籍事項及び認知事項は移記できないことになっているからであること、抗告人の出生事項は重要な身分事項であり、本来記載すべきことになっているが、抗告人の母に対し抗告人の出生に関する事項申立書を提出するよう求めているが、その提出がないので、右出生事項の記載が出来ないままであること、以上の事実が認められる。

入籍の点は重要な身分事項でないことは明らかでありそして認知事項は、嫡出でない子にとっては重要であるが、抗告人のように父母の婚姻によって嫡出子たる身分を取得している場合には(戸籍に父母の三男と記載されている)、移記すべき程に重要ではない。

むしろ出生事項の方が重要であるのに、前記調査官の抗告人の母鈴木イエの陳述を録取した調査報告書によれば、抗告人は母に「出生に関する事項申立書」を提出させないようにしていることが認められる。

そうだとすると、前記身分事項欄が空白であることを不適法であるということはできない。

2、抗告人主張の②について

前述のとおり、抗告人は嫡出子として現在の戸籍に記載されているのであるから、入籍事項と認知事項の移記がないからといって抗告人の言うような「嫡出子権侵害の遺漏がある」ということはできない。

また原判決の、戸籍法一一三条にいう「戸籍の記載の遺漏」とは、戸籍の記載があってその一部が脱漏していることを指し、そもそも戸籍に記載がない出生事項につき同条による戸籍訂正は許されない旨、及び入籍事項と認知事項の記載がないことにつき戸籍法施行規則三九条の解釈により同法一一三条にいう遺漏にあたらない旨の説示は正当であって、同法施行規則の戸籍様式に反するということはできない。

3、抗告人主張の③の事実は、抗告の理由に該当しない。

4、抗告人主張の④について。

イ  原審判が対立する当事者のないまま申立を却下したものであることは、抗告人主張のとおりであるが、抗告人が原審において特別家事審判規則一〇条に基づいて申立てた戸籍訂正許可の申立事件とみなされた本件において相手方となるべき者のいなかったことは明らかである。従って相手方として東京都墨田区長などを表示しなかった原決定は正当である。これを事実に反し無効であるということはできない。

ロ  原審判書に表示された家事審判官と、昭和五一年一二月一三日一一時に開かれた原審における期日に立会した家事審判官とが異なることは、記録上明らかである。

しかし直接主義を規定した民事訴訟法一八七条は、非訟事件手続及び家事審判手続にはその性質上準用されないと解するのを相当とする。従って昭和五一年一二月の審判期日に立会しなかった家事審判官が記録に基づいて審判をしたことをもって、この審判を無効ということはできない。

三、他に記録を精査するも原審判を取消すべき違法な瑕疵を発見することはできない。

四、よって特別家事審判規則一条、家事審判規則一八条、家事審判法七条、非訟事件手続法二五条、民事訴訟法四一四条、三八四条に則り本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 園田治 木村輝武)

〈以下省略〉

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